COLUMN

ウェディングスタッフが見た心が震えたエピソード8「ファミリーミート」

結婚式では、挙式の始まる前に、
ファミリーミートを行うことがあります。

ファミリーミートとは、
当日、タキシードのご新郎と、
ドレスを身にまとったご新婦が、
親御様と初めて対面する瞬間を言います。

娘と息子の晴れ姿を見た瞬間、
たくさんのことを思い出すそうです。

生まれたての我が子を
愛情いっぱいの両手で抱きしめた瞬間、

一人で学校に向かう
ランドセルを背負った小さな背中、

社会人になって
親元を離れる日の誇らしげな表情。

かけがえのない思い出たちが溢れる、ご家族にとって大切な時間。
そんなファミリーミートにまつわるお話をお届けします。

ある結婚式で、親御様のお話になると
急に静かになってしまうご新郎がいらっしゃいました。

普段は笑顔で明るくお話しされるのに、
親御様のお話になると「自分の話はいいので」と一点張り。

何かあったのかなと思うほど、
親御様との話を避けられました。

特に嫌がっていたのは、
ご親族様の控え室に子供の頃の写真を飾ること。
「これだけは飾りたい」と、ご新婦に強くお願いされたので、
しぶしぶご新郎もお写真も飾ることとなりました。

結婚式前日にお写真をご持参いただき、
控え室へ飾っているご新郎の表情を見ると、
ご家族と映る幼少期のお写真を懐かしそうに、
そして優しいまなざしでご覧になっていました。

もしかしたら親御様との間に何かあったのではなく、ただ素直に向き合えないだけなのかもしれません。

私はそう思い、当日親御様をご案内するスタッフに、これまでのご新郎の様子を伝えておきました。

そして当日、その理由がわかりました。
お母様が控え室に入り、飾られた写真を見た瞬間、ぽろぽろと涙されたのです。
そして写真を見ながら、小さな声で一言。

「こんなことをする子じゃないのに…。」

お母様は、小さい頃の思い出の写真を飾っただけで、あんなにも感動してくれるほどです。

ご新郎はこれまでお父様やお母様に、
素直に想いを伝える機会が無かったのではないか思い、そのタイミングをお創りしたいと考えました。そこで急遽、ファミリーミートを行うことにしたのです。

少しの時間の中で、
スタッフはご家族の雰囲気に合わせて場所を選び、BGMを考えて空間を創りこんでいきます。

ご家族のかけがえのない瞬間へと、スタッフの気持ちが集中します。
そしてファミリーミートはチャペルで行うことに。

まずチャペルの中にご新郎ご新婦をご案内し、
いったん扉を閉めます。
扉の方を向いて背筋をピンと伸ばすおふたりは少し緊張気味です。

扉の外に親御様をご案内すると、
ご新郎のお母様はすでに胸に手を当て、
両手でハンカチを握りしめていらっしゃいました。

「中におふたりがいらっしゃいます。扉が開きましたら、ゆっくりとお進みくださいませ。」

スタッフがゆっくり扉を開くと、
白いチャペルに柔らかな光が差し込みおふたりを照らします。

その光景を見た瞬間、
ご新郎のお母様は口元をおさえて涙を流されました。

一歩一歩ゆっくりと進む親御様。
お互いの表情が、はっきりとわかるぐらいの距離まで近づいた時、うつむいたご新郎の目から一粒の涙がこぼれました。

人前で見せたことのない、
想いが溢れ出したかのような柔らかな表情。

ご新郎が涙を流したのは、唯一この瞬間だけ。
そのあとはいつものように笑顔で明るくふるまうご新郎の姿がありました。

お母様もそんな息子の晴れ姿を見て、
嬉しそうに一日をお過ごしになられていました。

このファミリーミートは、
ひとりのスタッフがご新郎のお母様の『涙』と『言葉』に気付き、お創りできたシーンです。

おふたりの結婚式を最高の一日にするために、
ゲストお一人おひとりの心の温度を敏感に感じ取り、どんなお時間をお創りするべきかを考える。

決まった進行通りに進めるのではなく、
最後の最後まで考え抜くことが、
私たちの大切にしている想いです。

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