COLUMN

ウェディングスタッフが見た心が震えたエピソード9『かけがえのない手紙』

これは挙式の前に起きた、
手紙にまつわるエピソードです。

ご新婦は、とても明るく愛される方なのですが、
お母様とは昔から距離があり、
今ではあまり会話することがありません。

お父様が他界されてからは少しずつ連絡をとるようになったのですが、それでもまだ心の距離があるとのこと。

ですが、お母様のお話しをされるときには、
「もっと素直になりたい」
「もっとたくさん話をしたい」
そんな想いが会話の端々や、表情に滲みます。

そしてある日、
こうご相談してくださったのです。

「この結婚式をきっかけに、母と新しい関係を
スタート出来たらいいなと思っています。
でも、どうしたらいいのかわかりません。」

プランナーの私は少しでも心の距離を近づけたいと思い、まずお母様のお気持ちも確かめるため、お電話をさせていただきました。

ご新婦がお打合せでお母様のことを深く考えながら話されていたこと。『もっと素直になりたい』
『お母様とたくさん話をしたい』と思っていらっしゃること、お父様がいた頃の、あの頃の家族に戻りたいと願っていることをお伝えしました。

お母様は、静かに聞いていらっしゃいます。
電話口からお母様のお気持ちを感じた私は、
最後に1つ、こうお願いをしました。

「お母様のお気持ちを、
お手紙にして当日お伝えいただけませんか?」

しかし、長い沈黙のあと、
「少し考えさせてください」と一言。
この日はご快諾を得られませんでした。
その後何回かご連絡するも、曖昧なまま日にちが過ぎていきます。

このまま結婚式が終わってしまったら、
ふたりの距離はもっと離れていくかもしれない。
『いや、そうならないよう当日にも出来ることがあれば何でもしよう』そう心に誓いました。

結婚式当日、まず私はご新婦の想いをスタッフミーティングで伝えました。
すると、その想いを聞いたあるスタッフが、
心の温度を上げる仕掛けを行ったのです。

スタッフは控え室で、あえてお手紙のことには触れず、ご新婦の幼い頃の思い出や、お父様のお話しを少しずつ伺っていったのです。

次第にお母様から笑顔がこぼれ、ご自身から楽しそうにお話してくださりました。
そしてバックの中から、封筒を取り出して見せてくださったのです。

それは、新婦に当てたお手紙でした。
想いは伝わっていたのです。
私は心の中で、安堵のため息がこぼれました。

その手紙をただ渡すのではなく、
お母様の言葉で伝えることに意味があると感じた私は、挙式が始まる直前にお読みいただくようお願いしました。

そして挙式直前、
ゲストは挙式会場へと進み、一時の静寂が訪れます。

純白のドレスに身を包んだご新婦と
お母様、親子ふたりだけの時間。

お互い向かい合い、空気がぴんと張り詰める中、
お母様がそっと手紙を取り出します。

「実は、手紙を書くべきか、
何を書くべきか、昨日まで迷っていました。
でも、この機会を逃したらもう二度と、
娘に想いを伝えることが出来ない。
そう思ったので手紙を書いてきました。」

震える声で伝えられるのは、
愛情いっぱいの言葉たち。

ご新婦は予想していなかった手紙に驚くも、
嬉しくて、涙が頬を伝います。
お母様も途中から涙で読めなくなっていました。

ぽつり、ぽつりと紡がれる言葉。
そして最後にこう一言。

「あなたはお父さんとお母さんのたからものです。私たちの娘に生まれてくれてありがとう。」

ご新婦に渡された、涙の跡がのこる封筒から出てきたのは、お父様との家族写真。

写真を手に取ると「なつかしい…。」と、
親子は顔を見合わせて微笑みました。

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交わす言葉が少なくなったからこそ、
手紙にすることで、普段言えないことが
自然と出てきたりします。

書いては消して、消しては書いて。
何度も繰り返すことで、
心の奥にある本当の想いに
気付くことだってあります。

そうやって選び抜かれた言葉は、
どんなに綺麗な言葉よりも心に届く、
世界でたった一つの贈り物になる。

今までの距離なんか忘れてしまうくらい、
嬉しくて、大切なもの。

『手紙』という聞きなじみのあるシーンでさえ、
目の前のお客様の気持ちに寄り添えば、
生まれるご提案が必ずあります。

結婚式で流れ行く瞬間を、
かけがえのない思い出に変える。

それが私たちの役目です。

 

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